広島大学
大学院統合生命科学研究科
分子栄養学研究室
Last Updated:2023/11/25
RESEARCH
1.肥満などの生活習慣病の発症や病態進行に関わる新しい分子の探索
肥満は、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の基礎疾患としてとても重要です。脂肪組織を構成する脂肪細胞がエネルギーの蓄積により肥大しますが、同時に肥満白色脂肪組織では多数の炎症性の細胞が侵入することで蓄積しており、肥満組織では慢性的な炎症を起こしていると考えられていますが、この慢性炎症が、糖尿病などの合併症と密接に関係します。当研究室では、脂肪組織が慢性炎症を起こした際に化学発光させることで、体外から観察可能な遺伝子組換えマウスを開発しており、食品の機能性に関して実験動物を殺さずに解析する方法を提案しています。脂肪細胞の慢性炎症の観点から、肥満発症のカギとなる因子を探索し、抗炎症性の食品素材の機能性の評価などに応用したいと考えています。また、皮下脂肪や異所性脂肪組織などの体内での
脂肪組織の分布と病態形成との関連性に関する研究も行なっています。
2.細胞内のコリン生成に関わる新規酵素の単離、および生理機能の解析を通して栄養素コリンの生理的役割の解明
栄養素であるコリンはリン脂質の合成やメチル基供与体、さらにアセチルコリンの合成などに広く利用される必須の栄養素でありますが、先進国での食生活での不足が指摘されています。一方、コリンは細胞内で産生されますが、その分子機構については不明でありました。当研究室では、細胞内のグリセロホスホコリンからコリンの生成を担う新規酵素を単離し、細胞内のコリンを生成する新規ルートとして提案しています。同酵素の生理機能を解明することで、細胞内のコリンの代謝機構を解明し、コリン欠乏の引き起こす細胞障害性についても分子レベルで明らかにしようと考えています。同酵素を欠損したマウスの作製にも成功しており、組織におけるコリンの調節機構からコリン欠乏症のメカニズムの解明にも利用することを目指しています。
3.新しい付加価値を持った地域貢献型食品の開発
最近では、地域密着型研究として、柑橘類や植物などを用いた食品研究を行っています。広島県の面する瀬戸内海は風光明美な大自然を有するだけでなく、温暖な気候を利用して多くの柑橘類が栽培されています。特に、広島県産である経済品種を用いて、その有用性を幅広く探した結果、広島県産の八朔において血中中性脂肪などの低下作用など、その効果は他柑橘類と比較しても際立っていると考えられ、広島県内の食品メーカーと協力して、柑橘を用いた新しい商品の開発に携わっています。現在では、骨格筋の萎縮予防などの寝たきりの問題を抱える高齢化社会に対応した食品機能性に関する研究課題にも取り組んでいます。
4.骨格筋におけるイミダゾールペプチドを増加させる食品因子の探索
イミダゾールペプチドは、ヒトを含めた動物の骨格筋に豊富に含まれるジペプチドですが、その中でもカルノシン(β-Alanine-Histidine)、アンセリン(β-Alanine-N-Methylhistidine)、およびホモカルノシン (γ-aminobutyric acid-histidine)は、抗酸化活性や抗疲労効果などの骨格筋を保護する機能性ペプチドとして注目されています。現在、私たちは食品因子によって骨格筋におけるイミダゾールペプチドを増加させる方法に着目し、その食環境の探索、およびその生理的な効果の検証を行っています。本研究によって、骨格筋の働きが低下する高齢者などに対しても有効な機能性食品素材を開発することを目標としています。